心房細動アブレーションは、一生、心房細動の発生を抑えることができるのか?
その答えは、「NO」です。
当院での心房細動アブレーションの成績は、前述した通り、5年間経過をみた時点での成績です。
それでは、5年以上経過した場合(7年、8年や10年等)はどうなのか?
確かに、アブレーション後、10年、15年と全く発作がない患者様はたくさんいらっしゃいますが、時間の経過とともに心房細動発作が出てくる患者様が少なからず存在するのも事実です。その理由は、心房細動の主たる原因が老化であることに起因します。つまり、アブレーションを行った時の異常電気信号はしっかりと抑えきれても、老化とともに心房の筋肉の新たな部位に異常電気信号が発生し心房細動となる患者様がいるからです。
他の多くの病気を考えてください。一度治療して治った病気に一生かからないという保証はないのです。
そのため、心房細動アブレーションを受けて心房細動がなくなった方でも、定期的な検診を受けることをお勧めします。そして、万が一心房細動が再度出現した場合には、速やかに医療機関を受診し、担当医と治療方針(再アブレーションあるいは薬物治療)をご検討ください。
最後に、私からの生活のアドバイスをお話します。
心房細動を現在持っている患者様、そして心房細動アブレーションを受けた患者様において、あまり生活制限はありませんが、いくつかの注意点があります。
■脱水を回避する生活を心がける
脱水状態は血液が濃縮しているため、その状態で心房細動が発生した場合、脳梗塞になるリスクが増加するからです。
脱水を引き起こす要因:サウナ、過度の飲酒、熱中症、競技スポーツ(通常のスポーツは良いのですが競技スポーツは脱水を回避できないため)等
■生活習慣病(高血圧、糖尿病、メタボ、脂質異常症等)を持っているなら 十分な治療をしておくこと
生活習慣病は、動脈硬化を進める病気と言われますが、動脈硬化は老化のことだと認識してください。年をとって老化が進むのは仕方ありませんが、生活習慣病はさらに老化を進行させます。生活習慣病をしっかりと治療することは、老化の進行を遅らせることになり、心房細動の発生やアブレーション後の心房細動の発生を低くする可能性があることを忘れないでください。
おわりに
本稿では、心房細動とそのアブレーション治療について述べてきました。より多くの方が、心房細動という病気を理解し、その治療の選択肢であるカテーテルアブレーションを知る手助けとなれれば幸いです。
横須賀共済病院 循環器センター 高橋 淳
- 第1章心臓の構造と働き
- 第2章どのように心臓から血液を送り出しているのか?
- 第3章心房細動は、どのようにして発生するのか?
- 第4章心房細動が発生するとどのような症状が出るのか?
- 第5章カテーテルアブレーション(カテーテル心筋焼灼術)とはどのように行うのか?
- 第6章心房細動に対するカテーテルアブレーションの変遷
- 第7章拡大肺静脈隔離アブレーションだけで心房細動は治るのか?
- 第8章肺静脈以外の心房筋からの異常電気信号を有する患者様のアブレーションは?
- 第9章心房細動アブレーション後に再発する患者様がいる理由と再アブレーション法
- 第10章持続性あるいは慢性心房細動に対するアブレーションの困難性
- 第11章心房細動アブレーションは、一生、心房細動の発生を抑えることができるのか?
国家公務員共済組合連合会